危険物施設と指定数量についての備忘録です。
前編・後編にわけて記載いたします。
前編は主に発電機に使用する燃料についてです。
電気設備設計の仕事をしていると、非常用発電機の計画を行うことがあると思います。消防法で定められた機器等への供給のみを行うための非常用発電機であれば、それほど大きなものにならないため検討する機会が少ないかもしれませんが、最近は一般の機器を含めて電力を72時間供給をすることのできる非常用発電機の設置を求められることが多くなっています。
72時間という長時間運転が必要な発電機設備を計画する際に、注意が必要といなるのが燃料の貯蔵についてです。発電機の出力にもよりますが、長時間運転するために多くの燃料が必要となってきます。
主に、72時間運転のための非常用発電機用燃料として利用されているのが「軽油」と「重油」だと思います。
この「軽油」と「重油」の貯蔵・取扱については、消防法と各自治体による火災予防条例によって規制されています。
「軽油」や「重油」は危険物と呼ばれ、その量によって危険性がかわるため消防法により指定数量がさだめられています。
【発電機に関わる指定数量】
主に発電機に関わる燃料の指定数量表をまとめました。
消防法による危険物分類のまとめ
危険物の分類 | 性質 | 品名 | 指定数量 | 指定数量の1/5 | |
---|---|---|---|---|---|
第4類 |
第1石油類※1 | 非水溶性液体 | ガソリン | 200L | 40L |
第2石油類※2 | 非水溶性液体 | 軽油,灯油 | 1,000L | 200L | |
第3石油類※3 | 非水溶性液体 | 重油 | 2,000L | 400L | |
第4石油類※4 | ー | 潤滑油 | 6,000L | 1,200L |
※2 引火点21度以上70度未満
※3 引火点70度以上200度未満
※4 引火点200度以上250度未満
言葉の定義「引火点・・・点火源(マッチの火など)を近づけると燃焼する最低の"液体"温度」
引火点が低いものほど指定数量の規制が厳しくなっています。
表の指定数量以上となると、”消防法”による規制の対象となります。
また、指定数量の倍数によって必要になる設備なども増えてきます。たとえば指定数量の10倍以上の場合、高さ20m未満の建物でも消防法によって避雷設備(新JISの保護レベルⅠ)が必要となります。
消防法だけでなく、建築基準法第48条の用途地域によっても貯蔵できる倍数の制限があるため注意が必要です。
指定数量未満の場合でも指定数量の1/5以上となると少量危険物と呼ばれ、各自治体の火災予防条例による規制の対象となります。発電機の燃料タンクなどはメーカーのカタログを見ると、この規制を考慮し重油用では1,950Lになっていたり、軽油用では950Lになっていたりすると思います。
いずれも指定数量未満に抑えるためです。
【発電機の燃料が指定数量以上の場合の分類】
指定数量以上の場合、危険物施設となり製造所・貯蔵所・取扱所の3つにわけられます。貯蔵所や取扱所はさらに細かくわけられていますが、主に発電機設置の際に適応される区分は下記となります。
・一般取扱所
・屋内タンク貯蔵所
・屋外タンク貯蔵所
・地下タンク貯蔵所
【指定数量の計算】
上記表の危険物の数量は、「指定数量の倍数」によって計算されます。
計算によって倍数が1以上となると指定数量以上を取り扱う危険物施設となり、その倍数が10倍・30倍になるとさらに規制や必要な設備が多くなります。
”危険物の貯蔵量/危険物の指定数量=指定数量の倍数”
(例1)発電機と燃料タンク(950L)を屋外設置の場合
軽油 950L/指定数量 1,000L=0.95倍 ・・・①
※表に記載しましたが潤滑油も発電機に含まれているため危険物の指定数量の確認が必要となります。油量は発電機メーカーのカタログ等に記載されています。
潤滑油 18L/指定数量 6,000L=0.003倍 ・・・②
①+②=0.953倍
となり指定数量の倍数が1未満で1/5倍以上なので、少量危険物となり自治体の火災予防条例が適用されます。計算結果が1以上の場合、指定数量以上となり消防法の規制が適用されます。
その他の詳細については「危険物法令の早わかり」に記載されていますのでご確認ください。
会社等に置いていると思います。
【まとめ】
指定数量とその計算方法について大まかに記載してみました。ほかにも危険物施設は倍数によっても必要な設備や規制の根拠法(火災予防条例・消防法・建築基準法等)も変わってきます。
危険物施設を計画するときは、規制関係を事前にまとめて抜けの無いようにする必要があります。
保安距離・保有空地の設置の有無によっては、計画のスペースに収まらない可能性もあるためです。
今回は、燃料タンクに貯蔵する危険物の指定数量による倍数の検討ですが、出力の大きな発電機の場合は、発電機本体の燃料消費量による指定数量の検討が必要になる場合があります。
後編で発電機本体の燃料消費量と指定数量の考え方について、備忘録をまとめたいと思います。
【”だそく”ですが】
既存発電機を72時間対応に更新する計画をはじめて担当した際、当然燃料タンク等も増設しないといけないのですが、危険物の指定数量などの話が出てきて”言葉の意味”や規制についてまったくわからず恥ずかしい思いをしました。
それから危険物取扱者(乙種4類)の勉強をして資格を取得しました。
危険物取扱者(乙種4類)は、ガソリンなどの一般的によく使用する燃料の取扱い資格なので受験者数も多く勉強資料もたくさんあります。また、危険物取り扱いの業務に従事していない場合、更新講習受講の法令上の義務はないので所持しやすいと思います。
一見、電気設備設計とは関係ないような資格ですが、最近はBCP対応のための発電機設置計画なども多くなっています。その時に発電機と危険物施設の知識は非常に役立ちます。
電気設備設計者にお勧め資格の一つです。
「発電機と危険物施設(指定数量の考え方)の備忘録(後編)」