kid_job_girl_teacher


電気設備設計の仕事で大切なのは、電気関係の規定を守りつつ機能的で、かつ経済的な計画を行うようにすることです。

※電源ケーブル等の定義:CVケーブル、VVFケーブル、IV電線など

経済的な計画をするためには、過剰な設計を行わないということです。
過剰な設計を行わないとはどういうことかというと、電気関係の規定や計算書に基づいた設計を行うということです。
もちろん設計を行っていく中で、不確定要素が多いまま進めていかなければならないことも多々ああります。
そのためリスクを考慮して安全側で計画を行っていくことは悪いことではありません。わたしも設計は費用面も含めいろいろな余力を残して、安全側で計画を行うようにしています。

リスクのための安全対策として、設計を行う場合でも、根拠や理論に基づいてなぜそうしているのかを設計者は、理解していないといけないと思います。

長く電気設備設計を行っている人でも、市販の計算書を主に使用していたり、計算などは協力会社にすべて任せてしまっている人などが抜けてしまっている規定が、”単相3線式の電源ケーブル等の許容電流は、2芯(単相2線式の場合と同じ)許容電流値を採用できる”ということです。

わたしは、計算書を建築設備設計基準に基づいて自分で作成しているので、その際に知りました。
この2芯の許容電流値を採用できるというのは内線規程にも記載されています。

わたしが2芯の許容電流値で問題ないというと、このようなことを言われたことがあります。

「中性線に電流がながれないのは、R相とT相の電源容量がバランスよく接続されているときであって、実際はバランスよく接続され、使用されていることなどないのだから、中性線に電流はながれているのが通常で、中性線にも電流が流れるのだから、3芯の許容電流を採用することは安全側だ。2芯の許容電流で見ていいのは完全にバランスが取れている状態だけだ」

わたし自身、電験3種理論の勉強にアップアップしているので、理論を完璧に理解しているわけではないですが、基本的な考え方をわかっていないから上記のような勘違いをしてしまう人がいるのだと思います。

この単相3線式は、なぜ2芯の許容電流値を採用していいのかを、内線規定に書かれているからという理由だけでなく、理論的に考えてみたいと思います。


【単相3線式とは?】

単相3線式とは、3本の配線を利用して通常200Vと100Vの両方の電圧を供給することのできる電源方式のことです。

3本のうち2本を電圧線とし、残りの1本は中性線として使用します。

電圧線2本をR相・T相、中性線をN相すると

R-T間は200V
R-N間とT-N間は100V

となります。

R相とT相に電気機器の電気容量をバランスよく接続すると、理論的にN相には電流は流れないようになっています。


【電源ケーブル等の許容電流とは?】

許容電流は、電源ケーブル等の配線太さや被覆の種類によって異なります。

なぜ許容電流が異なるかというと、配線の太さによって電流が流れた時に生じる発熱量と被覆の種類によって耐えられる発熱量が違うからです。

電源用の配線は主に銅線が使用されていますが、発熱は銅線の抵抗値に比例します。
銅線の抵抗は、配線太さが細くなると大きくなります。同じ電流値でも細い配線ほど発熱量は大きくなります。

その電流が流れた時に発生する熱に被覆が損傷しないで問題なく使用できる電流値が、電源ケーブル等の許容電流となります。
なので被覆に使用されている材料によって、耐えられる発熱量が違うため電源ケーブル等の種類によって許容電流も異なってきます。

なので許容電流とは、電流を流したときに電源ケーブル等の被覆が損傷したりしない電流値ということになります。


【単相3線式の電流の流れについて】

単相3線式は、電気機器をR相とT相にバランスよく接続しているときはN相には理論的に電流は流れれないようになっています。そのバランスが偏っている場合はどうなるのでしょうか。

※条件:50ATのブレーカを設けて合計50Aまでの電気機器の接続を想定

①単相3線式で電源容量のバランスが取れているとき

1

TーN間とR-N間に同じ容量(50A)の電気機器を接続し、使用している状態です。
この場合、N相は方向の異なる電流(赤矢印と青矢印)が同じ容量ながれているので、

50A(赤)ー50A(青)=0A 

となりN相の電流は0Aで、N相には電流は流れていないということになります。

”発熱の検討を行う際に必要なとなる3本に流れる電流の合計は100A”


②単相3線式で電源容量のバランスが最も悪い時

2

TーN間で電気機器を使用していない、もしくは接続していない状態です。
TーN間は電気機器を使用していないので電流は0A(赤)で、RーN間は使用しているので50A(青)の電流が流れている状態です。
RーN間しか使用していない状態が最もバランスが偏っていて悪い状態ということになります。

この時N相には

0A(赤)ー50A(青)=50A

となりN相の電流は50A青の矢印方向にながれていることになります。

”発熱の検討を行う際に必要なとなる3本に流れる電流の合計は100A”

③単相3線式で電源容量のバランスが少しだけ偏っているとき

3

これはR-N間に50A(青)とT-N間30A(赤)の電気容量の機器が接続され使用されている状態です。現実的にはこのように少しだけバランスが偏っている状態がほとんどなのではないでしょうか。

このときN相にながれるで電流は

30A(赤)ー50A(青)=20A

となりN相には20Aの電流が青色の矢印方向に流れることとなります。

”発熱の検討を行う際に必要なとなる3本に流れる電流の合計は100A”

【なぜ単相3線式は2芯の許容電流値を採用できるのか?】

上述の①②③の図のような形で、単相3線式の電流はながれます。

もっともバランスが取れている状態で、中性線のN相には電流はながれずバランスが悪くなるとN相にも電流が流れるようになっていきます。

許容電流について先に書きましたが、許容電流は発熱量によってきまってきます。
その発熱量は電流値によってきまします。

発熱量の計算式   P=IxIxR

I:電流 R:抵抗

単純に、発熱量は電流値Iの2乗に比例します。

なので上述の①のバランスが良い状態と、②のバランスが最も悪い状態は同じ2芯分の発熱量であることがわかります。
それで③の発熱量もN相に流れる電流値は、あくまでR相とT相の差分であることがわかります。T相に機器を接続していけば、その分N相は減少方向になっていきます。

なので単相3線式に場合、R相・N相・T相の3本同時にMAXの50Aの電流がながれることは理論的にはないということになります。3本のうち1本は、電気機器を接続していけば必ずバランスに関係なく電流は減少方向に向かいます。
ここが三相3線式とは違うところです。三相3線式は3本ともにマックスの電流が流れますが、単相3線式はどれか1本は必ず0Aに向かい同時に3本ともマックスの電流が流れることはないのです。

また、発熱量は電流Iの2乗に比例するので単相3線式の発熱量は、2本に電流が流れている状態の①②を考慮すれば、それで許容電流は安全側であるといえるのです。
③の場合でも、3本に流れる電流の合計値は100Aで①②と変わりません。

なので単相3線式の場合は、中性線を含めず2芯の許容電流の値を採用することができるのです。


【まとめ】

ご存知の方は、当たり前だと思われると思いますが、わたしの周りにたまたま多かったのかわかりませんが、電気設備設計を長くされている人でもそもそも単相3線式の場合は2芯の許容電流を採用できることをしらなかったり、計算書作成協力をいただいている協力事務所の計算書が単相3線式の幹線なのに三相3線の許容電流となる計算書となっていたりしました。

三相3線式の許容電流を採用することは、たしかに厳しい値となるため安全側ではありますが、基本的理論をわかったうえで安全側として採用する分にはなにも問題はありません。
ただ、なぜ単相3線式は2芯の許容電流を採用できるのか、根本的理論を理解していないで間違った理解のまま三相3線式を安全側だとして採用するのはおかしいし、技術者としてダメなことだと思います。


理論的には上述した発熱量の考えで、間違いはないのだろうなと思ってはいましたが、建築設備設計基準や内線規程にも2芯の許容電流でよいとは書いていても、なぜなのかの理由が書かれていないので、自身の考え方が間違っているかもしれないという不安もあったのですが、いろいろ調べているとここがポイント!内線規程Q&Aに「なぜ単相3線式の許容電流は2芯でよいのか」が書かれていたので間違っていない考え方なのだと安心しました。

こういうところは、誰かが作った計算書をただ利用するのではなく、自分で作成しているとどういう理論や規定に基づいて計算書が作られていうるのかわかると思います。
まだまだ、電気設備設計の仕事を始めたばかりの方などは、一度自分で電気の各種の計算書を自身で使用しやすい形で作成してみてはどうでしょうか。

建築設備設計計算書作成の手引 平成30年版の計算書を作成していくとすごく勉強になります。
この計算書のエクセル版のフォーマットも出版者が購入者向けに配布しています。
もちろんフォーマットだけで関数などの計算書式は入っていませんが。
わたしは、フォーマットをベースにいろいろ使用しやすいように自身のオリジナル計算書を作っています。